2024/10/10修正して更新
この記事は、画像以外東洋経済オンラインから全て引用しています。
周囲で「糖質制限ダイエット」で体重を減らしたという体験談を聞いたことがあるかもしれない。
ところが、さまざまな研究論文から科学的根拠に基づいて分析してみると、糖質制限ダイエットにより死亡率が高くなる可能性があるという。
食材をエビデンスベースで5グループに分類し、「体に良い食品」と「体に悪い食品」を明らかにした『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』を上梓したUCLA助教授の津川友介氏に、糖質制限ダイエットを避けたほうが良い理由を解説してもらう。
日本では「糖質制限ダイエット」が流行っていますが、私は糖質制限ダイエットをおすすめしていません。
体重を減らすという目的は達成できるかもしれませんが、死亡率が高くなるなど健康を害してしまうリスクが報告されているからです。
さらにいうと、たしかに糖質制限では比較的短期間で体重減少やウエストが細くなったことを実感できますが、6カ月以上継続することが難しいことも知られています。
今回は「炭水化物」に注目して研究からわかっていることを説明しようと思います。
ごはん、パン、麺類などの炭水化物は食事の中で大きな割合を占める重要な要素です。
なんとなく炭水化物は身体に悪い、もしくは太る原因になると思っていて、悪者になりがちなのですが、実はこの理解は間違っています。
最新の科学では、炭水化物をうまく選んで味方につけることで、空腹をがまんするなどのストレスを感じることなく、健康になり、痩せることができると考えられています。
まず理解していただきたいのは、炭水化物の中には、白米や小麦粉などのような「精製された白い炭水化物」と、玄米や全粒粉のような「精製されていない茶色い炭水化物」の2種類があるということです。
そして前者は健康に悪いのに対して、後者は健康に良いという真逆の影響があります。
白い炭水化物を食べている人ほど、糖尿病のリスクが高く、死亡率も高いことが知られています。
一方で、茶色い炭水化物を食べている人ほど、逆に糖尿病のリスクが低く、大腸がんのリスクや死亡率も低いと報告されています。
これは、外皮などに含まれる不溶性の食物繊維やその他の栄養素が健康に良いからであると考えられています。
実際に、炭水化物の摂取量と死亡率の関係を評価してみると、U字の関係にあることがわかっています。
つまり、炭水化物の摂取量は多すぎても少なすぎても不健康になってしまうということを意味しています。
この研究をもう少し詳しく見てみると、動物性の蛋白質・脂質の摂取量が多い人において、糖質制限ダイエットをしている人の全死亡率、心筋梗塞などによる死亡率、糖尿病の発症リスクが高いという結果でした。
一方で、植物性の蛋白質・脂質の摂取量が多い人においては、逆に糖質制限ダイエットをしている人の全死亡率、心筋梗塞などによる死亡率、糖尿病の発症リスクは低いという結果でした。
人は食べないとおなかが空いてしまうので、食事の量を単純に減らすということは難しいものです。
何かの摂取量を減らすと、その代わりに何かほかのものを食べることで空腹にならないようにする傾向があります。
糖質制限ダイエットをしている人の中には、肉などの蛋白質の摂取量を増やすことで満腹感を得ている人が多いと思いますが、肉は食べすぎると大腸がんのリスクを増やしてしまうなど健康に悪影響があります。
そもそも、不溶性の食物繊維が豊富に含まれる「茶色い炭水化物」の摂取量が減ること自体も、大腸がんのリスクを上げる原因になります。
白い炭水化物を茶色い炭水化物に置き換えることで、健康に良い効果があるだけでなく、ダイエットになることも研究結果からわかっています。
健康を犠牲にすることでやせることができる「諸刃の剣」である糖質制限ダイエットよりも、茶色い炭水化物を積極的に食べるという食事法で、健康的にやせていただきたいと思います。
糖質制限は比較的すぐに減量を実感できるので、良いと信じている人が多い印象があります。
しかし、そもそも糖質制限ダイエットによる減量効果が一時的であり、長期的に維持することが難しいことはあまり知られていません。
炭水化物の摂取量を控える糖質制限と、脂質の摂取量を控える低脂質ダイエットを比較した研究があります。
その結果を見ると、確かに6カ月までの短期的な追跡においては、糖質制限ダイエットに軍配が上がることがわかります。
しかし1年経つと、この2つのグループの間での違いはなくなってしまいました。
さらにデータを見てみると、1年間の段階で両群とも約4割の人はドロップアウトしていることがわかりました。
つまり、糖質制限ダイエットは長期的に続けることが難しい食事法であることを意味しています。
糖質制限ダイエットは、低脂質ダイエットと比べて副作用も多い食事法です。
やはり不溶性の食物繊維の摂取量が減るので、約7割の人が便秘になりますし、6割の人が頭痛を経験すると報告されています。
これらを総合的に判断すると、糖質制限ダイエットは医学的にはあまりおすすめできない食事法であると言っても良いと思います。
玄米にはさらに色々なメリットがあることが複数の研究で報告されています。
例えば、サンプルサイズの小さな研究ですが、インドで行われた実験(ランダム化比較試験)では、白米と比べて玄米では血糖値の上がりを約20%減少させたと報告されています。
玄米が糖尿病のリスクを下げたり、ダイエットに有効なのはこれが理由だと考えられます。
玄米の外皮(正確には酒粕)を摂取することで腹囲が減ったというランダム化比較試験の結果もあります、韓国からの報告です。
日本で行われたクロスオーバーデザインのRCT(介入群と対照群を途中で入れ替えて、それに合わせてアウトカムも逆転するか検証する方法。
通常のRCTでは違う人を比較するのに対して、クロスオーバーデザインでは同じ人において白米を食べている状況と玄米を食べている状況を比較しているので、よい研究デザインだと考えられています)では玄米に変えると血糖値とインスリン分泌量が減るだけでなく、血管内皮の状態も改善すると報告されています。
白米に戻すと戻ってしまうので因果関係としても信頼性は高いと思われます。
食事を変えるというのはなかなかハードルが高いものですが、日頃の白米を玄米に変えるというだけであれば実行可能だと感じる人も多いと思います。
いきなりすべて変えるのは難しいという方には、まずは1日のうち1食だけ白米を玄米に変えるというのでもいいと思います。
この方法では空腹をがまんしているわけではないので、長く続けることが可能でしょう。
それだけで、短期的にはウエストが細くなったり便通が良くなることが実感できると思います。
長期的には、糖尿病、脳梗塞、大腸がんなどのリスクが下がります(これは目に見える変化ではありませんが、リスクは確実に下がっています)。
玄米が食べにくいという方には、発酵させるなどして食べやすくした玄米をおすすめしています。圧力釜で炊くのもおすすめです。
玄米には毒(フィチン酸やアブシシン酸)があるので発芽させないと身体に悪いというのは都市伝説です。
昔、動物実験レベルでアブシシン酸が健康に悪影響があるかもしれないという報告があったのですが、どうやらそれが真実かのように広まってしまったようです。
果物から抽出されたアブシシン酸の経口投与によって、高血糖や高インスリン血症が改善したという研究結果もあり、アブシシン酸はむしろ健康に良いものである可能性があるということで現在研究されているくらいです。
玄米に含まれるヒ素が心配という方がいます。
たしかにヒ素の含有量は白米よりも玄米のほうが多いと言われています。
ヒ素が心配な方は、まず沸騰したお湯に玄米を5分間入れた後に、水を入れ替えて新しい水で炊飯すると効果的に取り除けると報告されています。
こうすれば、ヒ素の心配をすることなく、糖尿病や大腸がんのリスクを下げることができるでしょう。